[archive] 今後の展開

種間比較(国際脳)

精神・神経疾患で障害の見られる高次認知機能の神経基盤を明らかにするためには、ヒト脳機能イメージングによる関連脳活動とその神経回路の同定が有効である一方、それらの因果関係を実証するために実験動物を用いた研究が不可欠である。本研究では、進化的にヒトに近縁で脳活動を直接計測する上で代替のない優れたモデル動物であるマカクサル並びにマーモセットをヒトと比較することを目的とする。ヒト用超高磁場7TMRIをプラットフォームとして用いることにより、解剖と機能の種間相同性を明らかにする。(1)7TMRIによるヒト・サルの超高精細機能・解剖画像の撮像法ならびにそれらの解析手法を確立し、データフォーマットと解析手順を標準化する。(2)社会的認知機能の神経基盤を明らかにする目的で、マカクザルにおける関連脳領域及び神経回路を中心に、7TMRIによる超高細密解剖画像及び機能画像を取得する。それらを同一シーケンスで得られたヒトの超高細密解剖画像及び機能画像と種間比較して、社会的認知機能の領域化や神経回路の相同性を解析する。(3)健常マカクザル及びマーモセットに対し、7TMRIを用いて大脳基底核等の脳深部構造の超高細密解剖画像及び機能画像を取得し、電気生理学的•神経解剖学的手法によるマッピング•線維連絡解析の結果と統合する。また、大脳基底核疾患モデルに関しても同様なことを行う。(4)マカクザルにおける(1)頚髄部分損傷後の手指の巧緻運動の機能回復過程、(2)一次視覚野損傷後の視覚運動・視覚認知機能の回復過程、さらに(3)ウィルスベクター2重感染法による特定回路の選択的操作モデルを対象とし、回路の機能及び構造変化を皮質脳波(ECoG)や深部電極による大規模記録とその機械学習を用いたネットワーク機構の解析、高感度ウィルストレーサーによる神経解剖学的解析を行い、これらの結果を、7TMRIを用いた機能構造画像に集約する。(5)非ヒト霊長類で得られた生理学的所見を7TMRIによる機能構造画像に集約し、ヒト7TMRIデータを介して、3TMRIデータにより形成される疾患コホートデータと接続するデータベースを構築する。7TMRIを技術的な核として種間比較を行い、社会性の神経基盤、脳可塑性、そして精神・神経疾患における機能障害に重要な役割を果たしている大脳基底核の機能解剖に関する理解が飛躍的に進むことが期待される。この提案は、AMED戦略的国際脳科学研究推進プログラム(国際脳)研究グループ2:ヒト脳と非ヒト霊長類脳の種間比較研究に採択され、本年度から6年間の予定で開始されたところである。

 

応用脳科学への展望

外国語学習への応用

数年来、神戸大学の横川一博教授と共に、日本人の重要な課題である英語学習への神経科学的アプローチを模索してきた(科研費基盤A 学習による気づき・注意機能および相互的同調機能と第二言語情報処理の自動化プロセス)。これまで、特に、“自動化”を中心に研究を進めてきたが、今後社会的な相互作用と第二言語運用能力向上の関連を調べていく必要があり、その際に上記の方法論を適用していく。

 

感性脳科学への展開

生理学研究所は、2013年度より革新的イノベーション創出プログラム(Center of Innovation Science and Technology based Radical Innovation and Entrepreneurship Program;COI STREAM) に、NTTデータ経営研究所をはじめとする企業や横浜国立大学とともに、“精神的価値が成長する感性イノベーション拠点”のサテライト拠点として参加している。本プログラムは、現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方(“ビジョン”)を設定し、このビジョンを基に10年後を見通した革新的な研究開発課題を特定した上で、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを産学連携で実現することを目指したものである。このプログラムは、文部科学省科学技術・学術政策局のプログラムであり、科学技術振興機構(JST)を通して実施されている。ビジョンには次の3つが設定されており、生理学研究所はビジョン2に参加している。

  • ビジョン1:少子高齢化先進国としての持続性確保
  • ビジョン2:豊かな生活環境の構築 (繁栄し、尊敬される国へ)
  • ビジョン3:活気ある持続可能な社会の構築

生理研サテライト拠点は、マツダ・広島大学が中核である”精神的価値が成長する感性イノベーション拠点(以下、感性イノベーション拠点)”の一部である。感性イノベーション拠点は、プロジェクトリーダーが農沢隆秀マツダ技監、リサーチリーダーが山脇成人特任教授(広島大学大学院医歯薬保健学研究院、精神医学)であり、感性を定量化することにより、従来、勘に頼っていた製品開発をより効率的に行おうとするものである。生理学研究所では、知覚の可視化に関する研究とそのモデル化を進めており、当部門は「社会的相互作用における共有感」をテーマとして企業との共同研究を進めている。

 

ナショナルプロジェクトへの参画

革新脳

『7TMRIの導入と運用』 に既出

「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」は、神経細胞がどのように神経回路を形成し(ミクロレベル)、どのように情報処理を行うことによって、全体性の高い脳の機能を実現している(マクロレベル)かについて、我が国が強みを持つ技術を生かして、その全容を明らかにし、精神・神経疾患の克服につながるヒトの高次脳機能の解明のための基盤を構築することを目的として開始された。当部門は、臨床研究統括チーム(グループリーダー:笠井清登東大教授)に加わり、超高磁場(7T)MRIを用いたヒト神経回路画像計測・解析技術の開発を担当している。高精度化が期待される7TMRIをもちいたヒト神経回路解明のための画像取得・解析技術の研究開発を目的とし、ヒト生体の大脳皮質構築と神経線維草稿を数百ミクロンの解像度で三次元的に再構築し、高次認知活動中の神経活動を描出・統合して解析出来る超高解像度情報画像化システムを用いてコネクトミクスを推進する。2016年度は、マーモセット脳とヒト脳を連結するために、マカク脳MRI研究をはさむことを目的として、マカクサル用にデザインされた信号検知コイルシステムを導入中である。

 

融合脳

『ニホンザルMRI研究』に既出

「脳科学研究戦略推進プログラム」(脳プロ)は、高齢化、多様化が進む現代社会が直面する様々な課題の克服に向け、「社会に貢献する脳科学」の実現を目指し、脳科学研究を戦略的に推進している。特に「脳機能ネットワークの全容解明」という目標を掲げ、精神・神経疾患の克服等につなげるための基盤を構築することを目的としている。その研究開発プロジェクトの1つとして「臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服」(「融合脳」)が開始され、当部門は『BMI技術と生物学の融合による治療効果を促進するための技術開発』の「中枢神経回路の再編成を制御するBMI技術と生物学的手法の構築」(代表:山下俊英大阪大学教授)に参画(分担:福永雅喜 生理研准教授)し、安静時機能的MRI計測による大規模回路結合特性解析による機能回復バイオマーカーの確立を目指している。

 

脳プロ意思決定

成果報告

「柔軟な環境適応を可能とする意思決定・行動選択の神経システムの研究(意思決定)」は、京都大学大学院医学研究科の伊佐正教授を拠点長として、2016年11月に開始された新規脳プロ課題である。生理学研究所からは、磯田昌岐教授が研究開発代表者となって参加し、「社会的な意思決定と行動制御のシステム的理解に向けた研究手法の開発」を担当するとともに、定藤が「柔軟な意思決定の基盤となる神経回路に関するヒトと非ヒト科霊長類を用いた統合的研究」(代表:伊佐正)の分担研究開発として「二個体同時計測によるコミュニケーション行動の解析指標の開発とその神経表象のモデル化」を担当することになった。社会的相互作用における意思決定の神経基盤を目指して、2017年度は、fMRI脳波2個体同時計測の実施準備として、MRI装置内で利用できる脳波装置を設置し、特に電気的雑音を最小限にするための電気シールドを含む技術検討により、MRIとの同時計測に向け最適化を行った。高時間分解能で2個体同時計測機能的MRIを行うために、収集されたデータを超高速で画像再構成する装置を導入し、共同作業課題を用いた2個体同時計測機能的MRIを実施した。7TMRIに関して、安静時fMRIの雑音除去と高解像度拡散強調画像取得を行った。

 

国際脳

『種間比較(国際脳)』に既出

「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」(国際脳)は、革新脳等の既存ナショナルプロジェクトとの緊密な連携の下、国際的な連携強化を図り、ライフステージに着目し、正常から疾患までの縦断的な脳画像解析・ヒト-非ヒト霊長類種間比較・ヒトの脳機能の神経回路レベルでの解明を行う事で、精神・神経疾患の早期発見、早期介入等の実現へ向けて推進するプロジェクトである。

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